気候変動と生物多様性

地球生命圏という名の、運命共同体

「地球は青かった(The earth was bluish.)」
人類史上初の宇宙飛行士・ガガーリンの名言について、改めて考えてみる。

コロナ禍によって、私たちの生活は一変した。生活の場だったはずの自宅が仕事場となり、ヨガスタジオとなった。学校は休校となり、社会とのコミュニケーションのほとんどがオンラインに切り替わらざるをえなくなった。外出が規制される分、余白の時間ができるので、考えごとに適したライフスタイルへと変化したことは不幸中の幸いかもしれない。

新感染症が生まれる典型的なシナリオは、人獣共通の宿主域を持つウィルスが「何らかの原因」によって野生動物から人間に乗り換えることなのだそうだ。「何らかの原因」は、私たち人間の活動によって引き起こされる。よって、ウィルスは悪くない。ウィルスを結果的に媒介した動物にも、罪はない。私たち人間が、森林破壊や急激な都市化によって野生動物を絶滅危惧種となるまで追い込んでしまったり、産業社会によって引き起こされた気候変動によってウィルスに適した生育環境を意図せず増長させていたり、アニマルウェルフェアに配慮しない工業的畜産による家畜の密度飼いをしたり、そんな私たち人間の身勝手さによって、居場所をなくしたウィルスが人間という新天地をみつけて乗り移った。つまり、私たちが地球生命圏の一員であることを忘れてしまい、地球環境の破壊と生物多様性を無視し続けた結果、人間がウィルスに攻撃されている。指を差し向けるべきは、私たち人間だと認める必要があるのではないだろうか。ビジネスパーソンとして生きてきたこれまでの人生で、地球や環境のことについて、あまりにも省みず、理解をしようと努力をしてこなかった自分自身に気づき、私は猛省した。

そもそも「ウィルスが何者であるか」について調べて基本的な知識を得たのも今回のコロナ禍があってのことで、私は知らなかった。ウィルスが30億年もの遥か昔から、自然宿主と様々な戦略で共生してきたなんて。そして、忙しく過ぎていくBefore Corona(BC)の日常の中で考えたこともなかった。地球の43億年という悠久の歴史の中で、ホモ・サピエンスの歴史は僅か20万年程度だなんて。しかも、ウィルスは病を引き起こす負の作用だけではなく、人間の進化の過程において手助けをしてきた正の作用を持つこともあるという。

「全機現」でいこう

SONY CSL 船橋真俊氏の論考によれば、いま私たちが立っている土壌のうち特に数十センチの表土には、生物が永い歳月をかけて海から上陸進化を遂げてきた仕組みが詰まっているという。原始地球には強烈な紫外線が降り注ぎ、いかなる生物も単体では上陸できなかったのだとか。そんな過酷な環境下で、生物のゆりかごであった海の環境をなんとか陸上に持ち出そうと、植物は5億年もの時間をかけて地表を覆いながら流域を遡り、大気組成や水循環と精密に連動した形で現在の表土の仕組みをつくりあげたのだそうだ。そして、とても重要なこととして私は捉えたのだが、表土が発達した複雑な環境においては大部分の病原体は吸着されるため、一つの病気は簡単には拡散しないのだという。人工的な都会のアスファルトには、到底できない芸当である。さらには病原体抑制機能に加えて、有機物の生産と分解、水の貯留と浸透の調節、不純物の濾過や洪水・浸食の制御など様々な機能が「土壌の調整サービス(regulation service)」と呼ばれ、地球生命体の健全性を守り、育んでくれているというのだから、凄い。

ウイルスがその他の生物と幅広く共生系をつくり、様々な生態系サービスを支える一員として健全に活躍できるようにするには、自然がそのやり方を示してくれている土壌や海洋といったオープンシステムでの生態系ベース・環境ベースでのウイルスの多様な役割を解明していく必要があるだろう。これは、自然状態の生命科学として重要なテーマの一つである。

船橋氏が指摘する「自然状態の生命科学」の命題は、もはや私たち人類に突きつけられた命題なのだと感じている。
COVID-19は、実はメッセンジャーとして私たち人間に警告を届けているのだとしたら?

すべての生命が生まれてきた源泉となる「生物の多様性」。
船橋氏は、人間の脳でも認識しきれない、ビッグデータでも網羅することができない、無限増殖する個性を「超多様性(mega diversity)」と称し、多様性の重要性を説いている。私たちは、あまりにも自分たちのことだけを考えすぎているのではないか? 気づけば2019年には77億人となり、まるで地球生命圏における支配者のように思ってはいないだろうか?その結果、生物多様性は失われ、悠久の時をかけて植物が中心となって創り上げてくれた生命を育み続けてくれた表土環境も破壊されていき、森林も破壊され、いまや気候変動問題が「待ったなし」で私たちに暗鬱たる未来の憂鬱を突き付けている。

禅語に「全機現」という言葉がある。
文字通り「全ての機能を現す」との意で、組織マネジメントにおいては「ひとりひとりが大切、必ずそれぞれの個性にあった役割があるのだから、経営者は多様性を活かしきる組織づくりを心がけよう」との文脈で語られている。この考え方は、私たち人間が地球生命体の一員として「超多様性(mega diversity)」を如何に理解し、如何にして共存共栄の関係性を築いていくのかというテーゼにも有効であるように思う。

私たちは、「生きている」のではない。
実は「生かされている」のだということを、そろそろ本気で自覚した方がいい。
COVID-19が、そんな「無言のメッセージ」を届けているように思えてならないのは、私だけだろうか。

 


↓↓↓ SONY CSL 船橋真俊氏の論考 『表土とウィルス』

この記事は、ソニーCSLが発行しているメールマガジン T-pop News No.177 に船橋真俊が寄稿した文章です。
新コロナウイルス発生の本質について考えるための情報として、ここに公開します。

 

 

 

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