Profile 002: よこはま動物園ズーラシア

▲ ブルガリア国の親善大使 ローズクイーンのツヴェテリナ・イリエヴァさんを華やかに迎えるズーラシアのみなさまとベニコンゴウインコのロゼとルリコンゴウインコのアイ

横浜市にある、日本最大級の都市型動物園。 「生命の共生・自然との調和」をメインテーマに、1999年にオープン。
動物たちを生息地の気候帯・世界の地域別に、それぞれのゾーンに分けて展示しているのが特徴。8つのゾーンを巡りながら、世界一周旅行の気分で動物や自然環境について楽しく学ぶことができます。動物の生態や行動を楽しく学んでもらうこと、彼らが暮らす地球環境の豊かさを知ってもらうことを目指したズーラシアの展示方法は、複数種の混合展示に取り組むなど、なるべく動物たちを自然に近い姿で見られるよう、さまざまな工夫が施されています。

センス・オブ・ワンダー、それは 動物園からのとっておきの贈り物

もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない”センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見張る感性)”を授けてほしいとたのむでしょう。この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤となるのです。

1962年に世界で初めて化学物質が環境と生態系に与える危険性を告発した歴史的著書『沈黙の春』を刊行した米国のベストセラー作家であり、海洋生物学者であったレイチェル・カーソン(1907-1964)の文章を編集した不朽の名作『センス・オブ・ワンダー』の一節である。

「この本で、いちばん好きな箇所なんです。」
よこはま動物園ズーラシア(以下、ズーラシア)の村田園長の目が、優しく笑う。
動物や自然、多種多様な”いのち”への尽きることのない好奇心と愛情に満ちているひとの目だ。

村田園長は一眼レフカメラをいつも持ち歩き、時間をみつけて園内を歩き回っては、ズーラシアで暮らす動物たちの愛くるしい表情や、躍動感のある動きをファインダー越しに記録をしている。その素敵な写真の数々は、ズーラシアのSNSでも見ることができる。ぜひ、のぞいてみてほしい。個性的な動物たちの “いのちの輝き”に、あなたもきっと魅せられるだろう。


Photo credit goes to Zoorasia: ズーラシアで暮らす動物たちの日々の営みのヒトコマ。ひとつひとつが美しく、「いのち」の躍動感と美しさに満ちあふれている。

人間が暮らす「まち」の中にあって、世界中の動物を身近に見て、驚き、感動し、知り学び、そして守ることのできる場は「動物園」しかない

動物園が果たしている幾つかの社会的役割を考える上で、「自然認識(Nature Appreciation)」という考え方があるという。このことは何か社会的な変化を示唆しているような印象を受ける。
村田園長は、どのように捉えているのだろうか?

「1960年代頃から地球環境や野生動物が置かれている状況が経済発展に伴い急激に悪化し、それが改善される傾向が認められず、現在もさらに進行している現状を鑑みて、1970年代から希少種保全や生物多様性保全を動物園の重要な役割と認識するようになってきました。また、1990年代前半、とくに動物倫理感の進歩が著しい欧米先進国を中心として、動物の肉体的および心理的健康、いわゆるアニマルウエルフェア(動物福祉)を良好にすべきであるという動きも活発になってきました。このような社会的ムーブメントに対応するため、2015年に世界動物園水族館協会(WAZA)は ”種の保全”と “動物福祉”を世界戦略の2本柱として打ち出しました。」


▲ 2016年5月にイギリスのレスターシティ―で展開された動物が生きる権利について保護するように訴える人々。アナグマの殺処分について抗議するデモ行進を決行した。

「でも私は、そうした取組を下支えする ”自然環境を感じ、考える場を提供する” という半世紀前に提示された自然認識(Nature Appreciation)の考え方を重視しています。これまでも動物園の在り方の前提にあったのでしょうが、とどまることのない地球環境の悪化を止め守るためには、自らの足元から自然や動物を見詰め直す必要性があり、そのような場として動物園が社会的役割を果たすべきではないかと考えています。動物や自然のことを知らなければ守れませんからね。」

ズーラシアが地域社会と描く「新しい公共」の未来

ズーラシアは、横浜市の公共施設である。その点に於いて社会課題を解決することを事業目的とするソーシャルビジネスに近い印象があるが、ズーラシアとして、経営で心がけていることはあるのだろうか?また、近年ではシェアリングエコノミーの盛り上がりによって、公的サービスの一部が「地域住民参加型」の民間サービスへとシフト、あるいは官民共創が盛り上がりをみせるトレンドも見受けられる。進化しつづける「公共」の在り方については、どのように考えているのだろうか?

「動物や自然環境について感じ、考える場」を広く提供するという意味で、動物園は公営・私営に関わらず公共施設、とくに社会教育施設のひとつと言えるでしょう。公営のズーラシアとしては、単なるアミューズメントパークではなく、より公共性の高い内容と質が求められ、かつ ”誰もが気軽に利用できる” 場所であるべきという視点を大事にしています。一方で、指定管理者制度に基づき運営されている横浜市立動物園群は、いわば ”半官半民”の施設という面もあり、動物園という施設に対する先入観に囚われない、市民のための新たな役割づくりを追求していくことが求められると思います。」


Photo credit goes to Zoorasia: オウギバトと一緒にセルフィーを楽しむ、ズーラシア村田園長。

「公共」の在り方についての考察といえば、そういえば村田園長は世界最大級の「知の殿堂」として世界中のライブラリアンが憧れるニューヨーク公共図書館の映画化について、誰よりもはやいタイミングで興味関心を示していた。公共とは何か、ひいてはアメリカ社会を支える民主主義とは何かをも伝える3時間に及ぶ超大作として、当時、知識層の間で話題を呼んでいた映画だったと記憶している。村田園長は、どのような観点から映画に注目をしていたのだろうか?

映画『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』では、類似の公共施設としての環境下で、施設本来の在り方を模索し議論を重ねるスタッフの様子が描かれており感銘を受けました。我々も、「来園者にとって何が重要なのか、来園者のために何を提供すべきなのか、そして地球環境保全のために何をすべきなのか」という視点を忘れることなく、これからの動物園の在り方についてスタッフ一同で議論を続けていきたいと思います。

地域の「まなびのサードプレイス」としての動物園

村田園長は日本大学生物資源科学部動物資源学科で教鞭もとり、後進育成に尽力している人物でもある。その授業の聴講機会をいただき、最も印象に残ったこと。「Wild Life Management」は日本語に訳すと「野生動物保護管理」となっているけれど、実は「野生動物管理」であること。管理対象について、動物だけに留めるのではなく、むしろ人間を含めて環境保全を考えていく必要があるという論点だった。人間を含めて環境保全を考えるということは、私たち人間の経済活動や社会活動を含めて考える必要があるということである。動物園も、また然り。ズーラシアは地域とのつながりについて、どのように考え、どのように臨んでいるのだろうか。

「ズーラシアとして、地域の方々との連携は重視しています。これまでも、横浜市旭区内の駅伝大会のために場を提供したり、地域の小学校に出向いて動物に関心を寄せてもらうためのお話をしたりといった取組みを行っていますが、今後も、地域の方々との協働も含め、多種多様なアイデアで、より一層地域との連携を強化して来園のきっかけづくりと動物園の活用につなげていければと考えています。」

ズーラシアでは多岐にわたる環境教育プログラムを地域の小学校等の教育機関や来園者提供しているとのことだが、その内容はどういったものなのだろうか?ズーラシアの事業推進係のみなさまにお話を伺った。


▲ アフリカのサバンナゾーンにいるヒトコブラクダのソフィーやピノに会いに行ってみよう。
ラクダライド体験の詳細はこちら。 ⇒ http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/details/post-17.php
※ 新型コロナウィルス感染症拡大防止対策のため、現在は開催していません。最新の情報については、ズーラシアのホームページをご確認ください。

「ズーラシアでは、学習段階に応じたプログラムを用意しています。このプログラムは、学校団体を主な対象としています。ズーラシア来園にあたっての事前学習や事後学習、または総合学習の一貫としてご利用いただいています。具体的な例として、”ゾウ舎のバックヤードツアー” では、普段見ることができないインドゾウの寝室や台所(飼料庫)にご案内し、インドゾウの生態やインドゾウの食糧事情を伝えております。”レッツスタディ・ズーラシア” では、学校授業単位に合わせ ”動物の赤ちゃん” “動物園の獣医” “動物たちにズームイン” “なりきり獣医さん” といったプログラムを用意し、題名に沿った内容を解説しています。また、要望に応じたプログラムにも対応しています。このほかにも、ふれあい体験 (ラクダライド、ピグミーゴート、ひき馬、モルモット等)や、飼育体験や職業体験なども行っています。」

なんとも楽しそうなプログラム内容である。残念ながら、新型コロナウィルス感染症の影響でいまは開催が難しいとのこと。
再開の日が、待ち望まれる。

わたしたちの「ウェルビーイング 2.0」… 人間も、動物も、そして地球も。


Photo credit goes to Zoorasia: モナ・リザの微笑みならぬ、セスジキノボリカンガルーモアラの微笑み。

飼育される動物の心理学的幸福(サイコロジカル・ウェルビーイング)を実現するための具体的な方策が「環境エンリッチメント(Environmental enrichment)」と呼ばれ、欧米を中心に動物園や実験動物で広くおこなわれているという。横浜市には動物園が3園あり、私たち人間と動物たちとの共生の在り方についても、細やかに配慮をしていることは想像に難くない。動物園として、どのような取組みをしているのだろうか? 

「動物福祉に関する理念や水準の検討といった面では、近代に入った当初から動物への福祉に目が向けられていた欧米に比べて日本は遅れをとっているのが実情です。現在、日本の動物園では、世界動物園水族館協会(WAZA)が定めた動物福祉戦略を参考に、国際的にも通じる基準づくりを行っているところです。」

「一方で、それぞれの動物園では、動物の飼育環境を適正にすることで自然な行動を引き出す取組を行ったり、自然なかたちで安全に健康管理を行えるようトレーニングを行ったりといった取組みを進めています。たとえば、ズーラシアでは無麻酔でライオンやヒョウの健康診断や採血が行えるハズバンダリートレーニングを可能にし、横浜市立金沢動物園ではインドゾウに対して心拍数の計測を行うことでゾウの緊張状態を推測する試みなどを行っています。」

そういえばドイツではサーカスにおける動物利用が撤廃され、完全にテクノロジーでサーカスショーを創り上げたことが話題になった。

「サーカスの人気が根強い欧米ですが、一方で動物福祉への意識の高まりから、生きた動物を出演させずにお客様を楽しませるという方向転換がなされているようです。娯楽のためとは言え、恣意的に動物たちの動きを強制するということはあってはならないと思いますし、そこをテクノロジーが補完するというのは興味深い事例だと思います。」

テクノロジーの活用といえば、日本では2018年にKDDI/博報堂が開発した“動物園をスマホで楽しめるアプリ”『one zoo』といくつかの動物園との共創で、顧客体験価値向上につなげた取組みが注目された。どのようなサービスなのだろうか?

「ズーラシアを含む国内のいくつかの動物園では、動物園内外での体験価値の向上等を目的に、KDDI/博報堂の協力を得てテクノロジーを活用しています。これによりお客様は、スマートフォン上で動物の動画を楽しめたり、スタンプラリーを楽しめたりといった内容になっています。ただ、生きた動物園の姿を身近に見た時の心が震えるような感動は、仮想空間では到底得られるものではありません。バーチャルとリアルを連動させることで、その感動や驚きをより豊かなものにし、結果的に動物園の存在価値や来園者満足度の向上につなげることが大切だと考えています。」

いのちのワンダーランド、動物園だからこそ出会える”感動”をみつけにいこう

レイチェル・カーソンは、”センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見張る感性)”を育むことは、レジリエンス(困難にぶつかっても、しなやかに回復し、乗り越える力)を育むことであると信じていた。「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない。そう洞見している。

子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。(中略)美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐み、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます。 

レイチェル・カーソンは、センス・オブ・ワンダーを育むことは、やがて知識や知恵を生み出す”種子”を育む肥沃な”土壌”を豊かに耕すことであると論じた。いのちのワンダーランドである動物園は、この肥沃な土壌を耕すことのできる豊かな「まなび」が宝石のように散らばった格好の探検場といえるのではないだろうか。


Photo credit goes to Zoorasia: ズーラシアの “ころころ広場” の池のハスの葉隠れにいるバッタ。ズーラシアでは至るところで「いのち」の息吹やつながりを感じることができる。まるで、「いのちのワンダーランド」だ。

「実物の野生動物(生きている動物たち)に出会えることが、動物園の存在価値であると考えます。その出会いと感動を通じて、さまざまな動物の特徴を知るだけではなく、いのちの大切さと守ることの大切さに対する”まなび”が始まります。特にズーラシアでは、それぞれの動物たちが生息する自然環境にも関心を寄せられるよう園のゾーニング、展示場の設計や解説も工夫されていますので、”感動”から”好奇心”そして”探求心”への流れがスムーズになると思います。動物園にお越しいただいた際は、普段見慣れない動物たちと同じ空気を感じることで動物たちとの”いのちのつながり”に気付いていただけたらと思います。その上で、自然環境への理解を深めていただけるような動物園とすることを目標としています。」

村田園長の目は、少年のような好奇心と探求心の輝きに満ちている。
それは、動物たちとの”いのちのつながり”の感動を知っているからこその輝きなのかもしれない。

今日もカメラを持って、園内を巡回し、動物たちの”いのち”の輝きの一瞬一瞬をファインダー越しに記録している。
もし、あなたの横にカメラを持った紳士がいたら・・・それは、村田園長かもしれない。

 

よこはま動物園ズーラシア
〒241-0001 横浜市旭区上白根町1175-1
開園時間: 9:30~16:30(入園は16:00まで)
休園日:  毎週火曜日(祝日の場合は開園し、翌日休園)、12/29~1/1
※ 臨時開園あり
※ 2020年9月7日から、入園には整理券の事前予約が必要となります。
※ 2020年10月19日から、入園者数を拡大し、平日の整理券予約は不要になります。
詳しくは、ホームページをご確認ください。 ⇒ http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/

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