ウシと気候変動

新しい時代の胎動

2021年は、辛丑年。
干支は60種類の組み合わせがあるので、60年ぶりの辛丑年ということになる。
「辛」は草木が枯れ、新しくなろうとしている状態を意味し、「丑」は種から芽が出ようとする状態を意味するという。

60年前の1961年の大きな出来事を振り返ると、ロシアの宇宙飛行士 ガガーリンが人類で初めて宇宙へ飛び立ち「地球は青かった」との有名な言葉を残し、東ドイツがベルリンの通行を封鎖して冷戦時代の象徴であるベルリンの壁ができた。日本では、坂本九の「上を向いて歩こう」がヒットしている。

旧い価値観から新しい価値観へ。
2021年は、新しい時代の胎動が聞こえる一年となるのかもしれない。

One health, One world  

かつて『工場畜産は人類史上最大の罪の一つだ』という記事を英国ガーディアン紙に寄稿したイスラエルの知性・ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)が厳格なヴィーガン(乳製品等も摂らない完全な菜食主義者)であることは、よく知られている話である。ハラリは人間と動物との関係に起こった次の大きな事件のひとつとして農業革命を挙げており、人間の土地への定着に伴う動物の家畜化の歴史について言及。伝統的な農業が工場畜産へと移り変わっていったことによって、私たち人間の勝手な都合で野生の牛・豚・鶏などを家畜化することについての非人道性を糾弾する。

アニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方が広まりつつあるものの、ハラリ氏はそろそろ、家畜たちについての科学的発見を心から受け止めるべきだとの警鐘を鳴らす。近い将来、人間は生命科学やナノテクノロジーや人工知能によって生命の有様を画期的に作り変えることができるようになるだろうからして、新世界を設計する際には、ホモ・サピエンスのみならず「全ての感覚ある存在たちのウェルフェア(福祉)」を考慮に入れるべきであると説く。

そのご指摘、ごもっともである。
ハラリ氏のように主義徹底してヴィーガンになることは難しくても、なにか自分にできることはしたいと思う。

畜産業は、気候にとって二重の脅威となっている。
南米ブラジルの亜熱帯地域では、二酸化炭素(以下、CO2)を吸収する森林が放牧地や牛の餌となる大豆作物を育てる畑に変わっているほか、家畜が排出する大量のメタンガスは温室効果ガスの発生源にもなっている。メタンガスは温室効果ガスの1つであり、大気圏に100年間留まる。その温室効果はCO2の28倍だ。地球温暖化の約20%はメタンガスに起因し、そのうちの約15%が家畜によるものとの試算もある。そして、驚くべきことに牛のげっぷやおなら(失礼!)には多量のメタンガスが含まれていて、鶏や豚に比べて排出する温室効果ガスは、国連食糧農業機関(FAO)のデータでは6倍以上という。

ナイス・トゥ・ミート( MEAT)・トゥ・ユー?!

そんな21世紀特有の社会事情を反映して、牛が排出するメタンガスを抑えるフードテック(Food Tech)や植物由来の代替肉のベンチャー企業が、いま、熱い。特に、代替肉については2025年に市場規模が3兆円を超えるとの試算もあり、米国では新型コロナウィルス感染症で既存の食肉産業のサプライチェーン機能が低下し、本物のお肉を供給できなかったことを補完して、売上を急激に増加させている。

米国では、2019年に代替肉企業で世界初の上場(NASDAQ)も果たしたビヨンド・ミート社(Beyond Meat)を、バーガーキングやスターバックスと取引があるインポッシブルフーズ社(Impossible Foods)が追い上げる。企業評価額は4,000億円超で、これまでビル・ゲイツを含む多数の投資家から総額1,500億円以上の資金調達を成功させ、飛ぶ鳥を落とす勢いである。

ESG (Environment, Sustainability, Governance)投資への高まりから、ファストフードの大手ブランドも熱い視線を代替肉に向ける。代替肉ハンバーガーを先行販売していた海外から、いよいよ日本にも舞台を広げるべく、ハンバーガーチェーン外資勢も動き出した。

<神奈川新聞 SDGs「横浜の挑戦」寄稿記事 掲載>

横浜市立金沢動物園でニホンカモシカ(シカ科じゃないよ、ウシ科だよ!)を探した後は、代替肉ハンバーガーを食べてみてはいかが?

2020年12月には、バーガーキングが数量限定・期間限定で「プラントベースワッパー」を販売開始(全国110店舗での限定販売、横浜市では 東戸塚、綱島、センター北の3店舗で販売)。売れ行きは、想定以上に好調のようだ。

2021年の今年は、マクドナルドが植物由来メニューとして「McPlant」の販売を発表。
自社ブランドにこだわるマクドナルドのサプライヤーが米国同様ビヨンド・ミート社となるかどうかは未明だ。

一方、日本ブランド勢も、日本人になじみのある大豆由来の代替肉ハンバーガーを先行してすでに販売している。

モスバーガーは、2015年からソイパティを展開しており、現在 9商品をソイパティに変更可能としている。
また、2020年3月には「MOS PLANT-BASED GREEN BURGER < グリーンバーガー >」を発売(全国約600店舗での限定販売、横浜市では 本牧、大倉山、関内、鶴ヶ峰、市が尾駅前、いずみ中央駅、横浜東口、横浜桜木町、金沢八景、横浜中山、十日市場駅前の11店舗で販売: 2021年1月時点)、ほんのりとホウレンソウ色のバンズが美しい商品だ。また、創業当時より注文を受けてから出来立てのものを提供する「アフターオーダーシステム」を採用することで食品ロスが出にくくなる工夫をしていたり、イートインにおいては陶器などの食器で商品を提供、テイクアウト時には紙バッグで対応をするなど、プラスチックゴミ等を低減できるように配慮している点にも着目したい。

ロッテリアは、2019年より「ソイ野菜ハンバーガー」を期間限定で販売、2020年には「ソイ野菜チーズバーガー」をラインアップに加えレギュラー販売(全国約350店舗で販売、横浜市では 駒岡イオン店、京急神奈川新町店、相鉄ライフ三ツ境店、上大岡店、若葉台店、オーケー港北ニュータウン店、三和こどもの国FS店の7店舗で販売)。また、ロッテリアについては、2016年から毎年期間限定で害獣問題の解決に資する「ジビエ鹿肉バーガー」も提供している点が興味深い。

フレッシュネスバーガーも、2020年10月に「THE GOOD BURGER」を発売。
日本発のスタートアップ DAIZ が開発する植物性の代替肉「ミラクルミート」を採用し、低糖質バンズを使用する等、”地球にGOOD! 健康にGOOD! おいしさにGOOD!”をキャッチコピーに販売攻勢をかける。全国のフレッシュネスバーガー店舗で販売している(ただし、横浜スタジアム店、神宮球場店、ジャングルカフェ店、東山動植物園ZOOASIS店、京セラドーム大阪店、PayPayドーム店、楽天生命パーク宮城店を除く)。

代替肉が気候危機対応への救世主となるかもしれない?! 私たちの「食」の未来

温暖化でもなく、気候変動でもなく、いまや「気候危機」として忍び寄る「いま、ここにある、危機」への対応が、2020年のダボス会議で取り上げられてから、世界は脱炭素社会に向けて大きく動き始めている。

CO2と共にメタンガスの排出を抑えるのであれば、私たち一人一人の「食のライフスタイル」を、ちょっとだけでも変えてみる必要があるのではないか。
日本で暮らす私たち一人一人が、たとえば一週間に一回、牛肉ではなく代替肉のお食事メニューを選択するだけでも、約1億食分の牛肉を生産するために生成されるメタンガスの放出を抑えることができる。

千里の道も、一歩から。
そういえば、坂本九の「上を向いて歩こう」は、海外ではなぜか “SUKIYAKI SONG” として大ヒットした。

パンデミックの艱難は、まだしばらく続きそうだ。
それでも、私たちは上を向いて歩いていこう。
気候危機に適応し、大きな視点で「全ての感覚ある存在たちのウェルフェア(福祉)」を考慮に入れた社会デザインを新しい価値共創として繋げていけるように。いつか、”SUKIYAKI SONG” のすき焼きの牛肉が代替肉となる日が来るかもしれない。そんな未来も、想定しながら。

“SUKIYAKI” Quarantine Japanese Artists in NYC(2020年4月12日配信)

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